みん好きあげあげ!「雛の庭」
書きかけ晒しで参加したいと思います。
まずは【雛の庭】から。
去年J庭あわせでイベントにギリギリ書き上げた地獄のフルボッコBL小説『十月一日では~』に出て来る呪術師ゾエさんのお話です。
帝国と竜人たちが大陸の覇権を狙って戦いを繰り広げているファンタジー世界。
鱗のある竜人たちは太古の姿を今に蘇らせることができる――「転身」を行い、鱗の生えた化け物の姿にその身を変えることができます。ドラゴンチャン!
対する鱗無き者たち(猿)はずっと人型のまま。その中で小麦色の髪をした帝国人が次々と周辺の鱗なき者たちの集団を制圧し、猿の一大勢力となって、竜人たちのいる大陸中央部へ進出しようと、進軍し始めて――というのが舞台設定です。
『十月一日~』の主人公は兵士のヴラドと彼の養い子(でありながら実は竜人の子)カミラ。毒には毒を、竜には竜を、で、呪術師を使った洗脳や、それしか生きる道がない状態に追い詰めらて、帝国の言いなり人形と化していた二人のドタバタ☆フルボッコ疑似親子BLです。
呪術師はなかなか希少な人材(言い方!)なので帝国としては失いたくない――というわけで、呪術が跳ね返されたり解かれたりして術者に返ってきたとき、術者の身代わりにその毒をもらいうける身代わり役として"雛子"というサンドバック(言い方!)が常に呪術師にはついている、という設定です。
カミラに洗脳を施していた呪術師ゾエとヴラドは――ヴラドは覚えていませんが――幼い頃に同じ場所で暮らしていた幼馴染だ!!!という謎の萌え設定があったりするのですが、
この書きかけ(というか途中から放棄してしまった)【雛の庭】では、
ゾエがキースという"それなりに呪術師として育ちそうな素質"を持った子どもをひきとり、自分で育てていく~というしょうもないことを始めてしまったせいで、
キースにゾエがヴラドに思いを寄せていたことがばれてしまうという、叶わない初恋バレバレ小説―――になる予定でしたが、
なぜか、冒頭だけ書いて、放置しました。
放置しました。
放置しました。
チャ――――――――ン
おわり。
という感じで書きかけましたので、ここで、発表です☆彡
養父に手を握りしめられた瞬間、いやだと思った。
一瞬、キースの体は硬直し、それがすぐにとけたあと、彼はつくった笑顔を養父ゾエに見せた。
彼は暗闇のなかのひとだ。その両目は彼が仕事で光を失ってしまったと聞く。
それでも、些細な気配や人々の機微などに鋭く、キースは自分を育ててくれたこの父が苦手であった。非帝国人ながら呪術によってこの国を支えてきた偉大なひとでもあるのだが、どこか人間離れしたような異様な空気を身にまとっている。
やんわりと養父の手を離すとキースは窓を見た。
大きくつくった窓から陽光がほんのりとあたたかく入ってきてまぶしい。そのガラスの向こう側には緑が生い茂る養父自慢の庭があった。咲き乱れる花々のなかに白いワンピースの裾が揺れるのを見つけて、キースはそちらに吸い寄せられた。
「すみません、父上、彼女たちにも挨拶を」
出立の日の朝である。夕刻にはでなくてはならない。
寝起きの女中たちが慌てて支度をしている。
あわただしい室内をくぐり向けて野外に出れば、うっとした植物と土の臭いでキースの肺はいっぱいになった。葉の下にはまだ貧弱だが優しい陽光に輝く雨の粒が垂れさがっている。
「やあ、マリア」
キースは彼女の名を呼んだ。
呼ばれて顔をあげたのは、自分と同じ十五の子ども。養父が従えている雛子たちのなかで一番若い少女マリアだった。赤毛の直毛をふたつのおさげに編んで肩の上に垂らしている少女は、キースを振り返って白い歯を輝かせた。
「おはようございます、お坊ちゃん! 本日ですね!」
「よしてくれ、まだ半日ある」
「そうでした、出立は夕刻と聞いておりましたのに」
それに出立といえども、どこか遠方にでも行くわけではない。
帝都中央からは少しはずれた場所にあるが、館のある帝都には違いない。ただ通いから寄宿舎に入ることになっただけだ。
「それでは、本日は坊ちゃんにも花を贈ろうと思います」
マリアの手の中には白が鮮やかなユリが咲いていた。
この庭の住人たちは花を枯らすまえに、美しい状態で摘まれていく。
マリアを始め、シーナ、ローゼと養父の雛子三人のうち誰かが毎朝養父の長い髪にかんざしのように花を挿していくのだ。
齢四十を超えた養父に鮮やかな若々しい花が飾られるのを毎朝見てきたが、見慣れている光景とはいえ、どこか不思議なちぐはぐ感を不思議に思っていた。
だが、だれもそれをやめようとはしない。毎日、養父は花を髪に挿されている。そして、今日は自分の番が来たらしい。
「まあ、お似合いで!」
キースに花を挿そうとして背伸びをするマリアに、キースはしゃがみこんだ。
黒く長い髪を垂らしている養父と違いキースは髪を短く切りそろえている。
キースの黒髪は少しでも放っておくとすぐにくりんと激しく自己主張しはじめる。
癖の強さゆえに短くしていたほうが楽なのだ。そのため、耳に挟むようにして飾られた百合の花の重みを右耳で受け止める。
「お似合いって……こういうのは可愛い子のほうが絶対もっと似合うよ」
彼はマリアが挿してくれたものを手にとると、彼女に挿した。
赤毛と白い花。互いに引き立て合うように色彩同士がばちばちと弾ける。マリアは頬を少しあからめて、小さくうなづいた。
それがいじらしくて、キースはにやりと表情を緩めた。このままふたりだけの朝だったらよかったのに。庭に出ていた他の雛子がマリアを呼ぶ。声が飛んできた。
「マリア!」
――という名前が私のものだということに初めて気がついたのはいつだったのだろう。
物心つく前から、私はこの館に呪術師ゾエの雛子《身代わり》としての人生を歩んでいた。
同じく雛子のシーナとローゼが庭に出ている。
毎朝、手入れと同時に花を摘んでくる。それを主人の髪に挿す。
そのルーティンの輪にいつの間にかはいっていて、この膚に数センチくらいしみ込んだ私をつくる行動のひとつになっている。
ああ、そうだ、思い出した。百合の香りに、あの日の残像がよみがえる。雨上がりの庭で、雨の日のことを思い出す。鈍い灰色がかった庭の緑は、普段より濃くて重たい。
幹の上に滝が現れる。水に押されて下を向くほかない葉が何度も揺れ、打ち付ける雨音の他なにも聞こえない。
「マリア、よしなさい」
窓に張り付いていた当時の私は、驚いた。私の主人は目が見えない。それなのに、どうして私のしようとしていたことを、わかったのだろう。私は脱走をあきらめて、つま先立ちの浮かれた足を床にぺったりとつけた。
「はい」と返事をして、そばにひかえる。
椅子の上にすわったまま、虚空を見ているこの男は、なんだか得体がしれない変な生き物のよう。その変な生き物の、命のかわりに私がここにいる。
私も、左目を失っていた。それから内臓が少し足りない。
生まれたばかりの頃、なにかのまじないに失敗して返しの風が吹いた。主人は呪術者でこの帝国のために何かを呪い、何かに呪われ続けている。
かけたまじないが術者の意図とは別に解かれると、吹き荒れる返しの風から、数少ない術者を守るために、数の多い平凡な命を差し出す。それが雛子の役割で、私は私が望む前からずっと雛子として彼が失うべきものを私がはらってきた。
そのぶん、この裕福な生活ができているというべきか。
大きな窓からふりそそぐ太陽を浴びてあたたかく、好きに安楽椅子に座って、館にある本は読み放題。庭だってある。洋琴だっておいてあって、好き勝手、鳴らしてもおこられない。
シーナとローゼは手先が器用で上手に鳴らす。それに耳を傾けて微笑む主人のゆるみきった顔を私は知っている。
そのそばに少年がひとりいた。雛子とは別に主人がひきとった男の子。
何か不自由があるわけではない。むしろ、この恵まれた場所が窮屈で息がつまるような変な鬱屈を私は抱えていた。
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