門松SS「約束いたしません」
「ん」と言って唇を差し出して来る三十路の男――ただし見た目だけは美少女に門倉は戦慄を覚えた。わかっていてやっているのはわかるのだが、わかっていてもそれをする松宮の気がしれなかった。そう松宮侑汰。門倉史明の天敵である。
なにせ彼はこちらの気持ちをガン無視で自分に迫ってくる鬼のようなド淫乱マイペースマゾ男なのだ。しかもロリ顔なせいで可愛く見えるのだが、実際門倉よりだいぶ年上。
一瞬、彼のキス待ち顔を可愛いなどと思いかけて慌ててそれを訂正した。そんなはずがない。そうあってはならない。門倉は全力で拒否したつもりなのだが、彼は押しのけた門倉の手指に自信の細く白い指をからめてきた。
「うわぁ、あの、松宮くん、俺、全力で嫌がってるんだけど」
「嫌よ嫌よも大好きのうちといいますからねぇ」
「いや、そのニタニタしたきもい顔やめてもらえるかな」
手を引きはがそうとしたとき、硬いものに触れて門倉は思わず松宮の指へと視線を落とした。彼の中指に自分が触れたものの存在を見つけて門倉はぎょっとした。
「お前はラクダか何かか」
「ああ、はい、体内にたくさん水を蓄えていますので、いくらでも吹かせてください、潮」
下劣な彼の発言はもう慣れた。耳タコだ。なので何事もなかったようにスルーするスキルを門倉はいつの間にか身につけている。
彼の中指に触れてみるとタコになった部分が硬く、大きく膨らんでいた。ペン軸を乗せている部分に微かに色がついている。まだまだ彼の指の中指のこぶは大きくなっていきそうだ。
「門倉さん、さっきからそんなに俺の指が気になりますか?」
「あ、いや」
慌てて指を離した門倉に、松宮が抱き着いてきた。
「違うでしょ、中指じゃなくて、こっちとこっち」
小指と薬指を立てて見せつけてきた松宮に門倉は小首をかしげた。
「小指にはあなたとつながっている運命の赤い糸、薬指にはこれからふたりが永遠の愛を誓いあって――んぐ!」 聞いていられなくなったので、門倉は松宮の口をふさいだ。
「ぷはっ、な、なにを! どうせふさぐなら唇でお願いしますよ!」
「ちゃっかりキスをねだるな」
「なら、給料三ヶ月分を!」
「あげない」
「俺が差し上げる側なので結婚して!」
一瞬、金に目がくらみそうになった門倉は支えながら松宮がもう一押しする。
「三食ご飯付き高級マンション最上階、おこずかいナンボでもいけます、部屋にはクーラー完備」
「う、うう」
「ただひとこと、結婚を約束さえしてくれれば、金銭的ストレスから解放されるんですよ、門倉さん。しかも毎晩オナペット松宮くんがあなたの性欲を――んぐ!」
「いや、やっぱり結構です」
我と現実にかえってきた門倉の眼は死んでいた。
(了)
10月19日#創作BL版深夜の60分一本勝負 第136回 お題「指輪」「約束」
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